東京高等裁判所 平成4年(ラ)17号 決定 1992年9月24日
横浜市港北区新羽町二〇五〇番地
抗告人
株式会社レオナード
右代表者代表取締役
三河良三
埼玉県朝霞市膝折町二丁目一五番一一号
抗告人
株式会社無限
右代表者代表取締役
本田博俊
右両名訴訟代理人弁護士
野上邦五郎
同
杉本進介
大阪府東大阪市水走四六八番地の二
相手方
株式会社アローエンタープライズ
右代表者代表取締役
本田理
右訴訟代理人弁護士
山上和則
同輔佐人弁理士
樋口豊治
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人らの負担とする。
事実及び理由
第一 抗告の趣旨
一 原決定を取り消す。
二 相手方は、原決定添付別紙物件目録記載の自動車用ホイールを製造し、販売してはならない。
三 相手方の占有する前項の物品及び同物品の製造に用いる金型の占有を解いて、大阪地方裁判所執行官にその保管を命ずる。
四 訴訟費用は、原審、抗告審を通じて相手方の負担とする。
第二 事案の概要
次のとおり付加訂正するほかは、原決定「事実及び理由」の「第二 事案の概要」欄の記載のとおりであるから、これを引用する。
一(「二 争いのない事実」欄について)
原決定二枚目裏一〇行目の「本件類似意匠」を「本件類似意匠一号」に改め、同三枚目表二行目の次に行を改めて
「5 そして、その後、本件意匠を本意匠として次の各類似意匠の登録がされた。
ア 本件意匠の類似二号
出願日 平成元年一月二六日
出願番号 平成一年意匠登録願第二四一三号
登録日 平成三年一二月二六日
類似意匠 登録第二号
(以下「本件類似意匠二号」という。)
イ 本件意匠の類似三号
出願日 平成元年三月一六日
出願番号 平成一年意匠登録願第九五二五号
登録日 平成三年一二月二六日
類似意匠 登録第三号
(以下「本件類似意匠三号」という。)
ウ 本件意匠の類似四号
出願日 平成元年七月五日
出願番号 平成一年意匠登録願第二四八三七号
登録日 平成四年二月二六日
類似意匠 登録第四号
(以下「本件類似意匠四号」という。)
エ 本件意匠の類似五号
出願日 平成元年七月五日
出願番号 平成一年意匠登録願第二四八三八号
登録日 平成四年二月二六日
類似意匠 登録第五号
(以下「本件類似意匠五号」という。)
オ 本件意匠の類似六号
出願日 平成元年七月五日
出願番号 平成一年意匠登録願第二四八三九号
登録日 平成四年二月二六日
類似意匠 登録第六号
(以下「本件類似意匠六号」という。)
カ 本件意匠の類似七号
出願日 平成元年七月五日
出願番号 平成一年意匠登録願第二四八四〇号
登録日 平成四年二月二六日
類似意匠 登録第七号
(以下「本件類似意匠七号」という。)
二(「二 争点」欄について)
原決定三枚目中、表七行目の次に行を改めて
「そして、右の主張を更に敷衍した主張の要旨は、次のとおりである。
ア 本件意匠は、基本的構成態様を同時的に備えたものが本件出願前に存在しない全く新しい意匠であり、これと公知意匠とを対比するには、ホイールの全体構成において対比するべきであり、要素の一つ一つを分解して対比するべきではない。
イ 本件意匠の特徴は、次のような点にある。<1>ホイールのリム中心部から、五本の同幅帯状のスポークが等角度に放射状に設けられ、その先端部分はリムの内側に当設し、<2>五本の同幅帯状スポークは、それぞれ全体がゆるやかに凸弧状をなして、<3>五本のスポークの中心部分には車軸挿通部を有しており、<4>各スポークの両側部は細幅で段状になったリブが表されている。
ウ 原審決定は、本件意匠の特徴として、<1>五本スポーク、<2>おむすび形透かし孔、<3>同幅スポーク、<4>帯状、凸弧状(太鼓橋状)スポーク、<5>細幅、段落し状、凸弧状リブ、<6>合弁花状スポーク、<7>窪み、すり鉢状陥没、車軸挿通孔、<8>リムボルトの存在の点を認定しているが、細部にわたりすぎ、相当ではないというべきである。
すなわち、<2>の点は、本件意匠において特別な意味をもつものではなく、本件意匠の特徴と考えるべきではないし、<4>の点も、緩やかな凸弧状というだけで特徴が表されており、あえて太鼓橋状と限定する必要はない。<5>の点については、リブはスポーク本体の両側に細い幅で付けられるものであり、平坦に近い本件類似意匠一号ほかの本件意匠の類似意匠と対比しても、重要な特徴ではない。<6>の点は、本件意匠においては、隣り合ったリブ同志は、デイスク中央部付近でつながっており、スポーク全体も隣のスポークとつながっているのであるから、スポーク本体がディスク中央部で連続しているかどうかは、本件意匠にとって、看者の注意を引く重要な部分とは考えにくく、合弁花状スポークを本件意匠の特徴とする必要もない。さらに、<7>も取り立てて認定するほどの重要な特徴とは考えられない。<8>のリムボルトは、ツーピースの型の自動車用ホイールのものには常に存在するもので、本件意匠の特徴とは考えられない。
エ 本件意匠とイ号意匠とは類似している。
すなわち、本件意匠においては、前記のとおり合弁花状スポーク、湾曲したリブは特徴ではないし、スポーク本体の幅や長さは本件意匠の特徴ではない。
また、本件意匠と各本件類似意匠とを対比してみると、ディスク中央部に車軸挿通孔の代りに六角ボルトを配し、スポーク及びリブの湾曲の程度が異なっていても(本件類似意匠二号)、ディスク中央部に四本のボルトホール部を覆うセンターカバーを設け、その中心に六角ボルトを配し、スポーク及びリブの湾曲の程度が異なっていても(本件類似意匠三号)、ディスク中央部の四個のボルトホール部を円形に表し、スポーク本体が隣のスポーク本体と連続的に連ならず、個別に分離しており、スポークの中心寄りが平坦であり、更にリブが湾曲せず、平坦となっていても(本件類似意匠四号)、ディスク中央部に四個のボルトホール部を円形に表し、スポーク本体が個別に分離して、スポーク及びリブが本件意匠ほど湾曲しておらず、ほぼ平坦になっていても(本件類似意匠五号)、ディスク中央部の四個のボルトホール部を円形に表し、スポーク本体が個別に分離し、スポークの湾曲程度が本件意匠と異なり、リブがほぼ平坦であっても(本件類似意匠六号)、ディスク中央部に四個のボルトホールを配し、リブの湾曲がなくても(本件類似意匠七号)、いずれも類似意匠として登録の査定を受けて登録されている。したがって、スポークが合弁花状であるか、離弁花状であるかは本件意匠の類似範囲に属するし、リブが平坦かほぼ平坦かも、本件意匠の類似範囲に属するから、イ号意匠と本件意匠とのこれらの違いにより、イ号意匠が本件意匠と非類似ということができない。
さらに、イ号意匠のスポーク本体の幅は、本件意匠のそれより細くもない。
これらの点を、総合して本件意匠の全体的印象とイ号意匠の全体的印象とを勘案すると、本件意匠とイ号意匠とは類似するというべきである。」を加え、裏七行目の次に行を改めて、
「右の主張を更に敷衍した主張の要旨は、次のとおりである。
ア 自動車用ホイールは、機能上の要請、JWL規格の充足の必要性、製造技術上の制約等によって、実施可能な意匠の範囲が相当に制約される物品であり、おおむね分類されるディッシュタイプ、メッシュタイプ及びスポークタイプのいずれにおいても、相似た意匠がひしめきあわざるを得ず、現に過去一〇年間に市販された五本スポークホイールの意匠を時間を追って調べても、その傾向は、はっきりしている。
イ 本件意匠の公知構成態様の寄せ集めにすぎないから、本件意匠の範囲は広いものであるはずがない。
ウ 本件意匠とイ号意匠とは、類似していない。
すなわち、イ号意匠は、本件意匠のような力強さを感じさせず、むしろ優美で洗練された印象を与えるのに対し、本件意匠は、全体として単純かつ力強い印象を与えるものである。この本件意匠の美感の特質は、本件意匠の類似意匠として登録された前記の八件の本件意匠類似意匠に共通する構成態様として、次のものが挙げられ、全体として力強い印象(美感)が生じることからも裏付けられる。<1>中心部から等角度で放射状に延びる五本の凸弧状リブ付スポークを有すること、<2>リブは、スポーク本体に対して明らかに従たる関係にあること、<3>リブを含むスポーク幅と、おむすび型透かし孔のリム側最大径部の寸法比が、ほぼ一対一のバランスを取っていること、<4>二四本のリムボルトが周設されていること。
なお、抗告人らは、疎乙第一九号証の一九(当審提出のもの)記載の意匠を実施しており、その意匠は、本件類似意匠四号ないし七号に先立って完成したと推測され、他の実施されていない本件類似意匠を類似意匠登録出願していることと対比すると、当然に類似意匠登録出願しながら、出願取り下げに至ったものと推認されるが、その疎乙第一九号証の一九記載の意匠は、本件意匠とディスク中央部の構造とリムボルトの有無の点のみで差異があるのみで、その他の構成態様を共通にしているから、右の程度の差異があれば、意匠として類似性を否定されるべきことが示されている。」を加える。
第三 争点に対する判断
一 争点1(物品としての同一性)について
原決定五枚目表九行目から同六枚目裏五行目までの認定判断は、当裁判所の認定判断と同一であるから、これを引用する。
二 争点2(本件意匠とイ号意匠の類否)について
1(本件意匠の構成態様)
(一) 記録によれば、本件意匠は、意匠に係る物品を自動車用ホイール(以下単に「ホイール」という。)とするもので、その内容は原決定別添一意匠公報の図面代用写真のとおりであることが疎明される。
そこで、まず本件意匠の基本的構成態様を検討してみると、(1)その全体の構成は、ホイールの外周の外輪部とその内側に固着された内輪部とからなっているが、前者はタイヤを装着するほぼ短円筒体のリム部であり、後者はハブ(車軸に取り付ける部分)及びスポークに相当する部分を一体的に形成したほぼ円盤状のディスク部であること、(2)スポークは、五本からなっていること、(3)ハブ部はディスク部の中央部に位置し、車軸を挿通するためのすり鉢状に陥没した丸い孔とその周縁部からなっていること、(4)ディスク部とリム部とが別個に成形されたツーピース型のものであることにあると一応認められる。
(二) そして、本件意匠の具体的構成態様のうち特徴的な構成態様は、次のような点にあると一応認められる。
<1> 五本の同一形状スポークがディスクの中心から等角度で放射状に伸び、それぞれの先端は、ディスク外周環状部に接合している。
(五本スポークタイプ)
<2> 隣り合ったスポーク二本とディスク外周環状部により、同一形状の五個の透かし孔が形成されているが、これらの透かし孔は、三つの角全部が丸まった二等辺三角形をしており、その形状は、おむすび型に近い。
(おむすび型透かし孔タイプ)
<3> 各スポーク本体は、ディスク中央よりの付け根付近から先端付近まで幅が等しく、やや太幅の帯状で、幅方向に平坦であるが、長さ方向では、全体が外側(ディスク表側方向)に緩やかに凸弧状をしている。
(帯状、凸弧状スポークタイプ)
<4> 各スポークの両側に形成された段状リブは、幅の細いもので、明らかにスポークに対し従たる関係にあるが、隣り合った二本のスポーク本体の側面に形成されたリブは、互いに連続している。
(段状リブタイプ)
<5> それぞれ隣り合った二本のスポーク本体は、これらに挟まれた角が湾曲したうえ合弁花のように連続している。
(合弁花状スポークタイプ)
<6> ディスク部の表面に、その外周環状帯とリム部の内周寄りのウエル端部の環状部分とを固着する多数のリムボルトの頭部が露出しているが、そのリムボルトは相当大きめで等間隔に表れている。
(リムボルト付環状帯タイプ)
(三) 抗告人らは、前記(二)<2>ないし<6>の各具体的構成態様について、<2>の点は本件意匠において特別な意味をもたず、<3>の点はこのように限定する必要がなく、<4>の点は本件意匠の類似意匠と対比しても重要な特徴でなく、<5>の点は看者の注意を引く重要な点でなく、<6>の点はリムボルトはツーピース型のホイールには常に存在するもので、本件意匠の特徴とは考えられない旨を主張し、また、本件意匠の特徴を、前記(二)<1>の点のほかには、五本のスポークの中心部分には車軸挿通部を有している点、五本の同幅状スポークがそれぞれ全体がゆるやかに凸弧状をなしている点、各スポークの両側部は細幅で段状になったリブが表されている点のみにあるとの趣旨の主張をしている。
しかしながら、前記(二)<2>ないし<6>の各点が前記<1>の点とともに本件意匠の特徴的な具体的構成態様であることは、後記のとおりホイールのうち最も取引者、需要者の注意を引くリム部分及びディスク部分の表側の意匠の特徴のいわば骨格ともいうべき部分がこれらの点にあることにより明らかであるし、また、記録により疎明される各本件類似意匠と本件意匠との共通点を検討してみても、裏付けられるということができる(もっとも、<5>の点に関し、本件類似意匠四号ないし六号は、一見するとスポーク本体が連続しておらず、離弁花のような形状をしており、本件意匠と共通していないように見えるが、その理由は、右各類似意匠がハブ部に中央車軸挿通部を有するセンターキャップを配したため、その外側寄り部分がスポーク中央部分を覆った結果にすぎないから、右のとおり判断するのに何らの妨げもないというべきである。)。
そして、抗告人の主張するスポークの凸弧状、リブの細幅、段状の状態も、前記認定の具体的構成態様に含まれるから、結局、抗告人の右の主張は失当であるというほかはない。
2(イ号意匠の構成態様)
(一) イ号意匠は、ホイールに係るもので、原決定添付別紙目録(添付写真を含む。)のとおりであるが、まず、その基本的構成態様を検討してみると、(1)その全体の構成は、ホイールの外周の外輪部とその内側に固着された内輪部とからなっているが、前者はタイヤを装着するほぼ短円筒体のリム部であり、後者はハブ(車軸に取り付ける部分)及びスポークに相当する部分を一体的に形成したほぼ円盤状のディスク部であること、(2)スポークは、五本からなっていること、(3)ハブ部はディスク部の中央部に位置し、その前方側にはセンターキャップとハブボルト隠し蓋を配置していること、(4)ディスク部とリム部とは、一体に成形されたワンピース型のものであることにあると一応認めることができる。
(二) そして、イ号意匠の具体的構成態様のうち特徴的な態様は、次の様な点にあると一応認められる。
<1> 五本の同一形状スポークがディスクの中心から等角度で放射状に伸び、それぞれの先端は、ディスク外周環状部に接合している。
(五本スポークタイプ)
<2> 隣り合ったスポーク二本とディスク外周環状部により、同一形状の五個の透かし孔が形成されているが、これらの透かし孔は、三つの角全部が丸まった二等辺三角形をしており、その形状は、おむすび型に近い。
(おむすび型透かし孔タイプ)
<3> 各スポーク本体は、ディスク中央よりの付け根付近から先端付近までほぼ幅が等しく、やや細幅の帯状で、幅方向に平坦であるが、長さ方向では、全体が外側(ディスク表側方向)に緩やかに凸弧状をしている。
(帯状、凸弧状スポークタイプ)
<4> 各スポークの両側に形成された段状リブは、幅の細いもので、明らかにスポークに対し従たる関係にあるが、隣り合った二本のスポーク本体の側面に形成されたリブは、互いに連続している。
(段状リブタイプ)
<5> スポーク本体は、隣り合ったものでも、互いに連続しておらず、あたかも離弁花のような形をしてハブ部の周辺縁端に結合している。
(離弁花状スポークタイプ)
<6> ディスク部とリム部とは、一体に成形されたワンピース型のもので、ディスク部分の外周環状帯は滑らかな輪の形をしており、その表面にリムボルトその他の露出物はない。
(リムボルトなし環状帯タイプ)
3(意匠の要部)
そこで、本件意匠とイ号意匠の要部がそれぞれどの部分にあるかを検討してみる。
ホイールは、タイヤにはめ込まれて自動車に装着されるもので、その取引者、需要者の注意を最も強く引く部分は、もっぱら装着時に外側から見えるディスク及びリムの表側の部分に限られるといいうる。そして、記録(殊に疎乙第三号証の一、二、第四号証の三、四、第九号証の二、)によれば、本件意匠の登録出願時以前に既に前記の本件意匠の基本的構成態様のすべてを充足するスポークが公然と知られ、また刊行物に記載されていたにもかかわらず、本件意匠が意匠登録されるに至ったことが明らかであること、本件意匠を全体的に観察すると前記1(二)の具体的構成態様をなす形状、模様が意匠全体の支配的部分を占めて意匠的まとまりを形成し、しかも、それぞれの点が本件意匠を観察する取引者、需要者の注意を引く部分であると見て取ることができることを考慮すると、本件意匠については、前記1(一)の(1)、(2)及び(4)の基本的構成態様が意匠の要部をなす(同(3)は自動車本体へのホイールの取付方法に規定された形状であって、取引者、需要者の注意を惹くような意匠的特徴をなすものでない。このことは、記録に徴し当事者双方の争わないところである。)とともに前記1(二)の本件意匠の具体的構成態様<1>ないし<6>もまた本件意匠の要部であるといってよいと判断される。
もっとも、右のとおり本件意匠の基本的構成態様が公知であったうえ、記録によれば、本件意匠が登録出願された昭和六二年九月以前に既に、五本スポークタイプ、おむすび型透かし孔タイプ、段状リブタイプ、合弁花状タイプ又はリムボルト付環状帯タイプのいずれかを採用して実施されたホイールが数多くあり、意匠登録されたものも多くあったことが一応認められ、本件意匠が具体的構成態様の場面においてもありふれた形状、模様が結合したもので、周知ないし公知の部分を多々含んでいることを否定することは、難しい。
しかしながら、記録によればまた、ホイールは、自動車本体の重量を支え、地表に駆動力及び制動力を伝える機能があり、かつ、それ自体がある程度の重量を持つこと、そのため、ホイールは、当然に相当程度の強度を要し、かつ、なるべく軽量であることが望まれるが、他方、製造法、生産性、コスト面から一定の制約を受けざるをえないこと、これらの性質から、ホイールの意匠は、ワンピース型、ツーピース型、スリーピース型に分かれ、また、おおむねディッシュタイプ、メッシュタイプ及びスポークタイプなどの類型に分類できることが一応認められ、新たな材質の開発を考慮に入れてもなお、ホイールというものは、全く新しい種類の意匠を考案することの難しい物品であることが明らかである。他方、本件意匠を全体的に観察した場合、前記の具体的構成態様をなす形状、模様が本件意匠全体の支配的部分を占めて意匠的まとまりを形成し、しかも、それぞれの点が看者の注意を引く部分であることは、前述したとおりである。
そうすると、ホイールの意匠である本件意匠を検討するうえにおいては、ディスク部及びリム部の表側の部分の意匠がかなり周知ないし公知の部分を含んではいても、意匠の類否判断には、これらの部分を含めたディスク部及びリム部の全体として意匠的まとまりが重要であって、その部分が意匠の要部から除かれるべきものではないというべきである。
また、全く同様に、イ号意匠の要部も、基本的構成態様(前記2(一))の(1)、(2)及び(4)と具体的構成態様(前記2(二))の<1>ないし<6>の双方であると認めることができる。
4(本件意匠とイ号意匠との対比)
前記検討の結果に基いて本件意匠とイ号意匠とを対比してみると、イ号意匠と本件意匠とは、双方の基本的構成態様(前記1(一)及び2(一))の(1)、(2)の部分及び具体的構成態様(前記1(二)及び2(二))の<1>ないし<4>の各点(ただし、<3>のスポークの幅には相対的に広狭の差がある。)において共通であることが明らかである。
しかしながら、これまでに検討してきたとおり、本件意匠とイ号意匠とは、基本的構成態様の場面において、ディスク部とリム部の関係が本件意匠ではツーピース型が採用されているのに対し、イ号意匠では、ワンピース型が採られている差異があり、具体的構成のレベルにおいて、前者では、合弁花状のやや太幅のスポークが採用され、ディスク部分の外周環状帯に多数の相当大きめのリムボルトを配しているのに対し、後者では、離弁花状でやや細幅のスポークが採られ、ディスク外周環状帯はリムボルト等の露出物をもたず、滑らかな輪を形成している違いがあり、前記3において検討したとおり、これらの違いは意匠の要部に係ることが、明らかである。そして、その結果、看者をして、全体的印象として、前者では、剛性があり、力強い美感を感ぜしめるのに対し、後者では、柔和で優美、透明な美感を感じさせるということができる。
そうしてみると、本件意匠とイ号意匠とは、要部において差異があり、取引者、需要者に異なった美感をもつものと認識されるというべきであって、両者は類似していないというほかはない。
もっとも、抗告人らは、合弁花状スポークは本件意匠の特徴ではなく、各本件類似意匠との対比から、離弁花状スポークは本件意匠の類似範囲に属するし、リムボルトの存在はツーピース型に常に存在しありふれたものであり、全体的印象を対比すると本件意匠とイ号意匠とは類似するとの趣旨の主張をしている。しかしながら、本件類似意匠のうちに離弁花状のものが含まれているからといって合弁花状スポークが本件意匠の特徴でないといえないこと、リムボルトの存在等がありふれた部分であることを理由に本件意匠の要部から除外されるものでないことは前記のとおりであり、イ号意匠の前記認定の意匠的まとまりを表わす本件類似意匠は存在しないのであって、全体的印象として本件意匠とイ号意匠とが別の美感をもつといいうるのであるから、抗告人らの主張は失当といわなければならない。
三 結論
そうすると、相手方による相手方製品の製造販売が本件意匠権を侵害していることの疎明がないというべきであるから、その余の争点について検討するまでもなく、本件仮処分申請は理由がなく、原決定は相当であって本件抗告は失当であるというべきであるので、これを棄却することとし、抗告費用の負担につき民訴法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 成田喜達 裁判官 佐藤修市)